基本報酬引き下げ下の訪問介護の経営(1)ーAI先生に教えを請う

訪問介護員のお仕事

こんにちは。合同会社たいがの小西です。今回は訪問介護の経営に関する話をさせていただきます。

介護報酬引き下げによる訪問介護の厳しい状況

先日、Webで訪問介護に関する記事を読みました。
訪問介護の基本報酬の引き下げ おカネ持ちだけが介護を受けられる未来」 (Yahooニュース経由、毎日新聞8/19(月) 7:32配信記事。Yahoo記事は既に落ちているので原リンク)

この記事の趣旨に賛同するかどうかは別にして、ここには訪問介護の経営の厳しさと慢性的なヘルパー不足、そしてその中での令和6年度の介護報酬改定における訪問介護の基本報酬引き下げの件、そして、いわゆるサ高住に代表されるような「囲い込み問題」など、訪問介護の今を知る上での情報が含まれています。

私は、家族や親族が介護職員さまのお世話になったこと、そして恐らくは私も将来、お世話になるだろうことを考えると、訪問介護含めた介護に関しては、他人事だとは思えません。

その意味で、記事のタイトル通りならばそれは反対ですし、訪問介護の基本報酬引き下げに関しては、そもそも、その引き下げ根拠となった「訪問介護の利益率の高さ」の妥当性にも疑問を持っています。
そして、医療と同様、介護は高齢者介護を社会全体で支える社会保険をベースにした公共サービスであり、利用者の尊厳を尊重すべきサービスであることから、営利のみの追求は相応しくないと考えています。

しかし…介護保険制度は施行前の「行政による措置」ではなく、「利用者本位」、つまり利用者がサービス内容や、それを提供する事業所を選択する自由を尊重しています。これは
「事業者はそれぞれ、自社の特徴や強みを生かした利用者のためのサービスを提供すること」すなわち、ある程度の事業者間の競争原理を前提にしています。同じサービスを提供する事業所ばかりなら「利用者の選択」など、起こりえませんから。

だからこそ、介護保険制度施行と共に民間事業者に介護サービス提供の門戸を開いたわけで、事業者はその意味で、利用者へ訴求できるサービスを提供するための経営努力は不可欠、とも思っています。

その努力の方向が「効率化」だけなのかどうかは、さておき。

訪問介護事業の難しさをChatGPTに聞く

昨今では介護保険の財源逼迫と介護職員の不足もあり「介護業務の効率化・生産性向上」が強く言われています。以前に私が書いた介護ロボットも、その一環で、それ以外でも事業所さまそれぞれ、業務の効率化に取り組んでおられます。

しかし、私は訪問系サービスについては広義の施設系サービスと比べ「介護業務の効率化」という面では難しさがあると思っていました。サービスの性質上、効率化=コスト削減や「生産性向上」の礎であるスケールメリットが効きにくいからです。

そこで、これに関し、対話型AIであるChatGPTに尋ねてみたところ、以下のような回答が返ってきました。

ChatGPT:
訪問介護を事業として見ると、確かに効率面や人材確保の難しさなど、いくつかの大きな課題が浮き彫りになります。

1. 効率の悪さ
訪問介護は、介護員が一人の利用者のために自宅へ赴き、マンツーマンでケアを提供する形態です。そのため、施設介護のように一度に複数の利用者に対応することが難しく、どうしても効率が悪くなりがちです。また、移動時間や交通費もコストとして発生するため、効率の観点では不利です。

2. 人材確保の難しさ
訪問介護はマンツーマンでのケアが基本であり、介護員が孤立しやすい環境です。これにより、利用者からのハラスメントや予期せぬ事態への対応が、精神的・肉体的な負担として重くのしかかります。このような状況下では、特に若い世代がこの職に就きたがらない、あるいは長く続けられないことが多いです。

3. 事業としての課題
訪問介護はビジネスとして見た場合、いくつかの難点があります。
•スケーラビリティ: 効率が悪く、利益を上げにくいビジネスモデルです。スケールアップしようとしても、訪問介護員の数を単純に増やすだけでは効率改善にはつながらず、コストが増加するだけです。

•プレッシャーによる離職率の高さ: マンツーマンのケア環境では、介護員の精神的負担が大きくなり、結果として離職率が高まります。これがさらなる人手不足を招き、事業継続にとって深刻な問題となります。

•サービスの質の維持: マンツーマンの環境下でサービスの質を高く保つことは難しいです。特に、複雑なニーズを持つ利用者に対しては、経験豊富なスタッフが必要ですが、その確保が難しいです。

4. 事業の未来
これらの課題を解決するためには、訪問介護を補完する新しいビジネスモデルや、技術の導入による効率化が必要となります。たとえば、テレケアやモバイルヘルスの導入、介護員同士の連携強化やコミュニケーションツールの活用などが考えられます。また、政策的な支援や補助金の活用、利用者の自己負担の見直しなど、制度面での改革も求められるでしょう。

総じて、訪問介護は非常に重要なサービスですが、事業として持続可能にするためには、効率化や人材確保の課題に対する新しいアプローチが不可欠です。
いかがでしょうか、このAI先生の回答は。「何を、エラソーに言ってるねん!そんなもん、言われんでも、分かっとるわ!😡」でしょうか?

現場の実情を分かっていない私ですが「4. 事業の未来」はもう少し議論の余地があるかと思いますが、1から3までは訪問介護(訪問系介護サービス)の事業としての難しさを端的に、そして的確に表していると思いました。
(しかしまあ、ホントに凄いものです。このAI先生の言語化能力は。実務は別にして、概要などを理解する上では、下手な介護の記事を読むよりよほどわかりやすいです)

では、介護業務の効率化や生産性向上を推進するということは、今後はスケールメリット=大規模化に舵を切っていくということでしょうか?確かに、いわゆる専門家の方や業界のアナリスト・コンサルタントの方は、そうなるだろうと言っています(「制度と経営に強くなる!介護経営の事業規模拡大策とスケールメリット」など)。

ということは、極端なハナシ、事業の大規模化に加え、それを一層推し進めるために「ビジネスモデルとして効率の悪い」訪問系サービスより、施設系サービスに比重を置くことになるのでしょうか? 「効率化」だけに着目すれば、論理的にはそうなりそうです。しかし…ここでまた、私は別の観点でAI先生に聞いてみることにしました。

「そもそも、訪問介護の意義って、何ですか?」と。

AI先生の仰る「訪問介護の意義」

ChatGPT:
訪問介護の意義について考えると、以下の点が挙げられます。

1. 利用者の自立と生活の質の維持
訪問介護は、利用者が自宅でできる限り自立した生活を続けられるように支援することを目的としています。自宅という慣れ親しんだ環境で生活を続けることは、利用者の心理的な安定や生活の質(QOL)の向上につながります。自分の家での生活は、ある種の「役割意識」や「自己決定感」を保つ要因になり、それが結果的に身体的・精神的な健康を維持する助けになることがあります。

2. パーソナライズドケアの提供
施設では多くの利用者に対して一括でケアが提供されることが多いですが、訪問介護では利用者一人ひとりのニーズやライフスタイルに合わせたパーソナライズドケアが提供されます。これにより、個々の利用者がその人らしい生活を続けることが可能となり、生活全体の満足度が向上します。

3. 家族のサポートと安心感
訪問介護は、利用者だけでなくその家族にとっても大きなサポートとなります。家族が常に見守りや介護をする負担が軽減される一方で、家族が利用者の生活に積極的に関与し続けることができるため、安心感が得られます。これにより、家族が利用者との時間を質の高いものにしやすくなるというメリットがあります。

4. 地域社会とのつながりの維持
訪問介護は、利用者が地域社会とのつながりを維持するための重要な手段でもあります。地域に住み続けることで、近隣住民や友人との交流が続き、社会的な孤立を防ぐことができます。これは特に高齢者にとって、心理的な健康維持に大きく貢献します。

5. ケアの柔軟性
訪問介護は、施設介護に比べてケアの柔軟性が高いです。たとえば、リハビリテーションや医療サービスと組み合わせることで、利用者の状態に合わせた包括的なケアプランを立てることができます。利用者が段階的に必要なサポートを受けながら自立度を維持・向上させることが可能です。

6. 利用者の尊厳の維持
自宅での生活を続けることで、利用者の尊厳が保たれます。自分の生活空間を自分で管理し、日常生活における選択を自ら行うことができるため、自己効力感が向上しやすくなります。

特に、自宅での生活が利用者の自立度や精神的な健康に寄与するという点は、訪問介護の大きな価値の一つです。施設介護と訪問介護は、それぞれ異なるニーズに対応するものであり、どちらがより適しているかは、利用者の状況や家族のサポート体制によって変わってきますが、訪問介護にはやはり独自の意義があると言えます。

私の家族はある事情で右半身が麻痺しましたが、退院後、自宅での生活を選択しました。当初は家族は自宅では到底無理と思っていましたが、病院の先生(医師)の「自宅で生活することは、一番良いリハビリである」という言葉に本人含め私たち家族も得心したからです。しかし先生は同時にこうも言いました「転倒などのリスクはかなり高いから、それは覚悟してね」と。事実、その後実際にそうなり、それがもとで施設入居に至りました。

しかし、自宅での生活は先生の仰る通りそれ自体が「リハビリ」であり、残存機能がかなり向上し、それによりQOLもかなり改善したことは事実です
(というより、当初は自宅での生活は絶対に無理と考えていたので、それが何年にもわたり継続できたことが、家族にとっては、奇跡みたいなものでした)。

もちろん、それは訪問介護や訪問リハの先生方のおかげでもありました。家族のお願いでリハの時間だけでなく「日常での宿題」も与えてもらい、本人もそれに取り組むことで機能向上ができたのです。
介護保険を使った住宅改装を行ったとはいえ、まだまだバリアアリーの状況でもあった自宅というのも、逆によかったのかもしれません。残念ながら、施設入居後は残存機能も著しく低下してしまいましたが(これは仕方のないことです)。

このちっぱけな個人的事例は、AI先生の1~6の回答をすべてカバーしています。
そして、何よりも、この1~6は、事業者さまが今後の経営を考えるうえでも、示唆に富む回答ではないでしょうか。
(しかしまあ、大したものです、このAI先生のご回答は。網羅性と言い観点別の整理能力と言い、重要なキーワードを欠かさないところといい…つくづく、自分の未熟さを思い知らされます😅)

まとめ(次回について)

訪問介護において、中小の事業者さまを取り巻く状況は厳しいのは事実です。
そして、介護業界全体の流れはともかく、生き残りをかけて何らかの手を打つことも不可欠だと思います。もう報酬引き下げは、少なくともこの3年間は変わらないのですから。
(もちろん、訪問介護業界としての省庁等への働きかけは重要だと思いますが)

次回は訪問介護の経営状況について、もう少し深く掘り下げてみたいと思います。
今年の8月9日に独立行政法人福祉医療機構(WAM)が作成した「2022 年度 訪問介護の経営状況について」(https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/240809_No002.pdf) は、極めて示唆に富む内容に満ちたレポートです。そもそも、訪問介護の経営状況の厳しさを私が改めて学んだのも、このレポートでした。

このレポート、そして、先にAI先生が与えてくれた示唆も踏まえつつ、どのような手を打つべきなのか、その方向性を、非力ながらも考えてみたいと思います。

それでは、次回もよろしくお願いします。