こんにちは。合同会社たいがの小西です。
弊社は過去、ある障がい者施設と介護施設のコンサルティングとIT導入に従事したことがありました。
また、私自身、家族、親族の介護に関わったことがあることから、個人的に興味を持ち、数年前にある介護ロボットの展示デモを見たことがあります。
介護職のかたは十分ご存じだと思いますが、介護ロボットとは「介護をされる者の自立を助けたり、介護職の行っている業務の手助けをするロボット」(wikipedia)で、様々なものがあります。詳細は「介護ロボットポータルサイト」などをご覧ください。
介護職の不足は高齢化が進展する中、介護保険制度を維持していくうえで重要な課題です。私自身も、自分の家族、親族が介護職の皆さまには大変お世話になっていたことから、この問題は他人事だとは思えません。
それで展示デモを見て、その後、介護ロボットに関して自分なりに色々調べてみたのですが…私の問題意識にドンピシャな記事と動画に出会いました。
記事:「介護ロボットが普及しない理由とは?最新の普及率や導入するまでの問題点を解説」
動画:「介護ロボットが広まらない理由は!?」
これは介護ロボットを考えるうえで、本当に良記事、良動画だと思います。介護ロボットの概要や厚労省が力点を置いている分野の説明などもよくまとまっていますし、何より本題である「介護ロボットが広まらない理由」を丁寧にまとめています。
もし介護ロボットの現状と課題に興味がある方は、ケアきょう様の上記の記事や動画、また関連記事などををぜひ、ご覧ください。
ということで…以降は、これを踏まえた「介護職ではない、ITコンサルタントの私見」ですので、お時間・ご興味がある方のみ、お読みください。
見守りロボットは「業務を遂行する」
介護ロボットの分野の中で最も普及しているのは、いわゆる「見守り」分野です。
見守りセンサーや機器(カメラ付き含む)は今は福祉用具の範疇を超えて、広く一般に出回っています。実際、私も親族宅に取り付けたことがあります。
もちろん、介護事業所で使うためには、他の機器もそうですが、機器性能に関する詳細な製品調査による選定、更には設置・設定のチューニングやテストなどが必要です。見守り機能の中軸であるセンサー(離床センサーや生体センサーなど)は設置場所や設定などにより誤検知も増え、アラームが鳴りすぎて却って介護業務の支障になる場合もありますから。
しかし、導入・メンテナンス費用や導入の手間などの障壁があっても見守りロボットの普及率が高いのは
「見守りを、ロボットが人間の代わりに、ほぼ全てやってくれるから」
であり、事業所経営者の皆さまにおける喫緊の課題である「人材の有効活用と人手不足の解消」に関し、直感的に効果が見えやすいからだと思います。
(もちろん「導入したから夜間の見回りをしない」にはならないでしょうが、その頻度や注力度合が軽減されるという意味です)
私が説明するまでもなく、見守り業務とは介護者が要介護者・障がい者の方など(以降「利用者」と呼ぶ)のそばについて、ベッド等からの転倒・転落の事故や体調の急変に備える業務ですが、利用者に対し様々な支援を行わなければならない介護職の方が昼夜を問わず、つきっきりで利用者を見守るというのは、先の「人材の有効活用と人手不足の解消」という点では現実的ではありません。特に、多くの利用者さまがいる介護施設などでは。
なので、「各種センサーが利用者の状況を常時チェックし、異常が発生すればそれを検知し、介護職員へ知らせる」という一連の業務を、人手をほとんど介さずにすむというのは有用です。また、機械が直接的業務=利用者を身体的に支援する=わけではないので、事故リスクの心配が少ないという点も見逃せないと思います。
身体介護支援系ロボットは「業務の一部」を遂行する
一方、移乗や移動、排泄、入浴等「身体介護を支援するロボット」の普及率は低いです。
余談ながら、私はこれらを見たり調べたりしたときに、一部の機器(装着型のパワードスーツなど)を除き、正直、これまでの移乗、移動、排泄、入浴支援などの福祉用具と、何が違うのか、よくわかりませんでした。
(私は、ロボットの「情報の感知・判断」という特性から、各利用者の身体的特徴等を認知・判断しそれに応じた支援制御を行う、とか、移動機器が施設の配置、傾斜、周りの動きも認知・判断したうえで自動走行できる、などを期待していたのですが、私の知る限り、そんなものではなかったです。しかしこれは、私の調査不足かもしれません)
これらが普及しないのは上記記事にもあるように「設置や保管場所の確保が難しい」「高度な技術を使いこなせない」は当然あると思います。そして直接的業務で使用するのですから、ロボットの誤動作・誤操作による利用者、介護者への事故リスクも無視できません。
加えて、私の観点では、先の見守りロボットと比較して
「ロボットに任せられることが部分的」
なので、事業者さま視点では、導入効果も限定的、だから「導入コストが高い」と判断されるのではないかと思いました。
要は完全に機械に任せられる(無人)わけではないこと、次に移乗や移動、排泄支援は「介護業務の中の1作業」でしかない、ということです。
「トイレ介助」という業務では、介護者はトイレ内での下着の着脱、便座への移乗、見守り、声掛け、清拭などに加え、居室とトイレ間の移動、移乗(ベッドから車いすに乗せるなど)など複数の支援作業を含みますが、そこで「移乗」作業だけをロボットに置き換えても「人材の有効活用と人手不足の解消」と言う点で大きな効果があるとは、直観的には思えません。
これは、見守りロボットが「人を介さず、見守り業務ができる」のと、対照的です。
そして、ロボットのセットアップ(段取り)などを考えれば、記事にあるように
介護職が着脱しなければいけないタイプの介護ロボットの場合、準備に時間をとられたり着脱行為がストレスに感じる可能性があるからです。と判断されるのも、当然だと思います。
(中略)
たとえば、車椅子からベッドに移りたいと言われるご利用者様がいる場合、介護ロボットを使用するのであれば、装着するまでご利用者を待たせてしまいます。
「だったら、移乗、移動、排泄支援のロボットを組み合わせれば、ロボットでも「トイレ介助」ができるのではないか?」と思われるかもしれませんが、それはあまりにも大がかりすぎること、また、「トイレ介助」という一連の業務をスムーズに行うためには、各ロボットが相互に連携する仕組みなどが必要になり、少なくとも現時点では現実的ではありません(もちろん、将来は分かりませんが)。
工場などでは「産業用ロボット」と言われる、「穴あけ・研磨」「部品の取り付け」「溶接」「塗装」などを専門に行うロボットがあり、これらロボットを制御システムによって制御、管理する自動化(ファクトリーオートメーションと呼ばれる)がありますが、記事にある
介護現場では工場の生産ラインのように、すべてをロボットに任せて自動化することは難しいです。は、介護業務と上記のような工場の自動化との違いを明瞭に意識されている点で、非常に示唆に富む文章だと思います。
なぜなら、介護の仕事はさまざまな業務があり、その都度必要とされる介護ロボットは異なるからです。
(中略)
ご利用者様は人間で、工場の製品のように機械的に作業することは不可能です。
まずは「現状分析と課題の明確化」
もちろん、これは身体介護支援系のロボット導入が無意味、と言っているわけではありません。
例えばこれら作業を常時複数人がかりでやっていて、その作業頻度も多い事業所さまの場合は、ロボット導入により、これら作業に要する介護者を1人でできるようになるとなれば、検討の余地があるでしょう。
また、介護経験が少なく介護技術や知見に乏しい介護職員を早期に即戦力とするためにロボットを使う、などの場合も検討の余地があるかもしれません。
機械や道具の力を使って人員を即戦力化する、という方法はいろんな業種でも採用されている効率化の方法です。
逆に、技術、知見を要するベテラン介護職員の方が、体力的に身体的介護が厳しくなったきたなどの場合も、ロボットを使って体力面をカバーし、長く安全に働いて頂く、なども考えられます。
これらはいずれも「各事業所さまの置かれた状況」により異なります。
従って、先にやるべきことは、ロボット導入の要否検討の前に
「事業所さまの置かれた状況=現状の介護現場の分析と課題の洗い出し」
が必要であり、これなしには費用/投資対効果の目算すら立たない、ということです。
実際、厚生労働省の生産性向上ガイドラインでも、調査→課題抽出→実行計画→改善活動→振り返りという継続的改善活動を推奨しています。「ロボット導入要否」は実行計画段階での検討です。
業務量の調査を含めた業務分析と、事業所の人員構成・施設環境なども含めて課題を洗い出す。その上で、先に書いたようなことが、その事業所さまにおいて「重要な課題」だと判明して初めて、解決策としてロボット導入の要否が実行計画案のひとつとして検討テーマとなる、というわけです。
「無駄な投資や出費に終わる」理由はいくつかありますが、その一つは、会社にとってあまり重要でない課題に対し多額の出費をすることですから。
加えて「ロボットは重要な課題を解決する、実行計画案の一つ」ですから、他にも案が出るかもしれません。例えば、コストや使い勝手、習得の容易さ、保管やメンテナンス、そして実績などの観点では、既存の福祉用具の活用も、案の一つになるかもしれません。
まずはロボット云々の前に、事業所の業務分析と課題の洗い出しを行う、その上で実行計画案検討の中でロボットが課題解決に効果があるか否かを検討する。
極めて当たり前ではありますが、これを行うことが無駄な投資や出費を避けることにつながりますし、何より自社をより把握することにつながります。
その意味で、先にご紹介した厚生労働省の「介護分野における生産性向上ポータルサイト」などは参考になるのではないでしょうか。
それでは、次回もよろしくお願いします。