こんにちは。合同会社たいがの小西です。今回はちょっと小難しく思える経営戦略、特に「集中化」と「差別化」について考えたいと思います。
経営戦略のキホン
経営戦略にはいろんな定義がありますが、私は経営学者マイケル・ポーター の言った
「経営戦略とは、企業がどのように競争していくのか、その目標はどうあるべきか、その目標を達成するためにはどのような施策が必要なのかについての広範な計画」
(「競争優位の戦略――いかに高業績を持続させるか」より)
という言葉が一番ふさわしいと思っています。
「どのように競争していくのか」ー競争は戦争と違い、相手を殲滅することが第一目的ではありません。まずは自社が事業体として継続していくことが第一の目的です。
「どのように競争するか」はまずは「どの土俵で」、次に「その土俵でどのように」生き残るかという話で、同じ業種でも土俵が違えばライバルではない、ということでもあります。
銀座の寿司屋とチェーン店の寿司屋は、恐らく互いにライバルとは思っていないでしょう。何故なら、土俵の違い=この場合は、ターゲットとする客層の違い=があるからです。
これは「集中化」(集中戦略)、そして狙うべき特定の顧客層を選定することを「ターゲティング」と言います。
「どのように」に関しては、ポーターはとても分かりやすいです。
「競争戦略とは、他と違うことをすることである」
(「What Is Strategy?」より)
これが「差別化」(差別化戦略)です。
「安売り」は非常に分かりやすい「他と違うこと」の方法です。
それ以外の方法としては「他より良い製品・サービス」。ただし、「より良い製品・サービス」を判断するのは顧客(消費者)なので、それを顧客に認知させるための努力が必要になります。
前々回にお話した「魚の味」のたとえと同様、興味やこだわりのない人には分かりません。そのための施策がPRです。PRは、会社や商品イメージの刷り込みもその目的の一つですが、前々回の記事で話した「サービスの質も、客がそれを学び、理解しなければ、わからない」ので「教育」も含まれる、というわけです。
サプリメントの広告などは、その最たるものです(私は、あの種の広告から別の面で学ばせて頂きました😏)。
こうした活動を「ポジショニング」と言います。
訪問介護における集中化と差別化の例
訪問介護業界における、集中化と差別化の事例はいくつかあります。
たとえば「波乱万丈の人生を糧に突き進む重度訪問介護のパイオニア(前編)」は、通常の高齢者介護ではありませんが(それもやっているようですが)、重度の障がい者の方をターゲットとした集中戦略であり、かつ、手厚いサービスの提供という点で差別化戦略でもあります。
また、「最適な人材を迅速にマッチング 介護保険外の訪問介護サービスが急成長」は介護保険外のサービスではありますが、保険外のサービス提供と介護士の指名制をセールスポイントとする差別化戦略です。
そしてこれも「保険外とされるサービスでも受けたい」あるいは「気心の知れた介護士に介護してもらいたい」という利用者層をターゲットとする集中戦略でもあります。
一方、大手の訪問介護事業所はどのような戦略でしょうか? それは「大手であることの利用者に与える安心感・信頼感」です。まあ「ブランド力」と言っていいかもしれません。この安心・信頼は根拠がある場合もありますが、広告等によるイメージの力による「安心・信頼」である場合も少なくありませんが。
昔ほどではないかもしれませんが、私たちが商品やサービスの消費者側になった場合も、特にこだわりのある製品やサービスでなければ、同じ価格なら「大手」を選択することが多いはずです。
現有の経営資源を使って「他と違うことをする」
私は、今後の訪問介護経営においては、生き残るために何らかの差別化が必要だと思っています。
前回の記事で話した「パーソナライズドケアによる囲い込み」も、他との事業所との差別化の方向を示唆しています。
ですから、今回、経営戦略の話をさせて頂いたのです。
もちろん、単に「弊社はパーソナライズドケアを提供します」では、「弊社は心のこもった(ハートフル)ケアを提供します」と同様、「他と何が違うのか?」はっきりしません。なので、ターゲットを定めた上で、これをもっと具体的に落とし込まないと差別化にはなりませんが。
さて、先に例を挙げた重度訪問介護にせよ、保険外サービスの訪問介護にせよ、「ターゲットを選ぶ」が基本になっています。「選ぶ」とは「他の選択肢を捨てる」あるいは控えめに言っても重点を置かないということです。
「選ぶ」が必要なのは、経営資源が限られており、いろんな分野に資源を分散させると中途半端になり「二兎を追う者は一兎をも得ず」となるからです。
選ぶことは当然、リスクを伴います(私の妻は買い物で「しまった、あっちのスーパーの方が良かった😖」といつも言っています)。
自社が選んだことが市場のニーズに合ってない場合は無駄になるどころか、経営の屋台骨を揺るがすような事態になりかねないからです。
だから一般には、選ぶ前に市場調査などを実施するわけですが、それにも限界があります。ましてや、中小企業ではそう簡単に市場調査などもできませんし。
しかし「リスクの低い選択」もあります。それはターゲットを変えずに、自社のヒト・モノ・カネという経営資源を活用(流用)できる場合です。これは事業の多角化をする際のポイントでもあります。
例えば、今の利用者様に、介護保険では適用できない訪問介護サービスを提供することは、そのサービスの内容にもよりますが、追加の投資などはなくリスクは低いでしょう。
あるいは、先の「重度訪問介護」に見習い、要介護度の高い利用者のケアの経験が長い介護職員が多くいる場合などは、そのスキルと経験を活かし、要介護度の高い利用者さまをターゲットにサービスを提供するなども考えられるでしょう。
他にも差別化の要素はありますが、既存の事業所がリスクの低い差別化を行うポイントは、自社の経営資源、特に「ヒト」のスキルや経験などの強みなどを十分に理解しているかどうか、ということだと思います。
もちろん、この「スキル」とは狭義の介護スキルだけではなく、コミュニケーション能力や提案能力などを含めたスキルです。
戦略を立てるには、競合他社や利用者(顧客)の分析なども必要だと言われます(3C分析)。
しかしまずは、「己を知る」ことが先決だと思います。個人でも法人でも「己を知る」は、なかなか難しいものですから(私自身も含む)。
まとめと次回
今回は一般的な経営戦略の概要とそのキーワードについて書きました。その趣旨は自社の経営を見つめ直す際に、ここで出てきた言葉に沿って考えると整理しやすくなるかもしれないと考えたからです。
また、差別化については、いくつかの事業所の例を取り、キーワードを使って、簡単に説明しました。これもその理解を深めて頂くためのきっかけとしてです。
最後に「リスクを抑えた差別化」を行う方法とポイントについても簡単に触れました。現実問題として既存の事業を抱えている中での差別化への取り組みは大変ですが、その中でどうやって取り組んでいくかということの示唆として書きました。
ところで…昔、コンサル会社に勤めていたころ、先輩に「戦略がないことも戦略だ」と教えて頂きました。
はじめは「禅問答?🤷♂️」と思ったのですが、要は大げさに「戦略」などと掲げていないが、「経営をする」ということは会社のヒト・モノ・カネという経営資源を投入しているのだから、そこには言葉に明確にされていない戦略がある、という話で「なるほどな…」と思ったことがあります。
(しかし実は、この言葉はある高名なコンサルタントの言葉だったと、後で知りましたが(笑))
皆さまのこれまでの「言葉に明確にされていない戦略」とは何だったか、一度、お考えになっても、よいのではないでしょうか。先に述べた経営戦略の枠組みの中で。
次回は「人材」について考えてみたいと思います。
というのは、これがサービス業の中のサービス業である介護事業における重要な経営資源であり、また、ある調査報告で、興味深い点があったからです。
それでは、次回もよろしくお願い申し上げます。